『PORTRAIT』インタビューVol.1 當村邦明

「イン、アウトの二元論ではなく混然一体となったものを」

當村邦明

今西セクステットを一言で説明するならば「ハード・バップを進化、発展させた現在進行形のジャズ・バンド」という表現になるだろう。しかし、そんな文言を並べるバンドは数多ある。そして、そういったバンドの中で本当にハード・バップを発展させて違いを生み出せているのか、甚だ疑問である。
そんな中にあって、今西セクステットはきちんと発展させ違いを生み出している現在進行形のバンドである、と私は断言したい。だって、演奏の質やら音楽性高さ云々の前にメンバーの當村さんって、かつてのハード・バップって印象じゃねえんだもん。

●新作『ポートレイト』について
――今西セクステットの新作『ポートレイト』が出来上がってみての感想は?

内容うんぬんというよりはもっと上手くならなあかんなあ、と思いました(笑)。まあ、それは個人的にいつもあることなんですけど。具体的にここというのではなく、全体的にありますね。レコーディングとなると若干構えてしまうところがないわけじゃないんでね。うーん。

――ミックスは立ち会われなかったとうかがいましたが

当日、行けなかったんですよ。で、ケンシロウさん(今作のミックスを担当されたエンジニア)が実況みたいな感じで、「今、こんな感じだ、とかMP3でリアルタイムに送って下さって、それを聴きながらもうちょっとこんな感じがいいですねえ、とお願いしたりしました。

――ソロについておうかがいします。今回もエリック・ドルフィー(as)とかダニー・マッキャスリン(ts)みたいな違和感ありありのソロですけど、方法論として何かもっていらっしゃるんでしょうか?

そんなええもんちゃうけど、好きですねえ、ドルフィーなんかは。ソロはその場、その場の思い付きです。コード進行に沿って分析的にソロをとっているということではないです。分析しようと思えばできるんでしょうけど、自分自身ではあんまりそう考えて吹いていないですね、正直なところ。ぼくはどうしてもねえ…バンドから飛び出したくなっちゃうんですよね。なんか違うことをしたくなってしまうんです(笑)。だから、あまり聴きやすくないんじゃないか、と。


Radical Jazz Standard Quartet at Dear Lord

――でも、それこそジャズの醍醐味じゃないすか!ハード・バップって、みんなが同じ方角を向いて積み上げていく音楽、だと思うんですけど、今西セクステットは必ずしもそうじゃないところ(特に當村さん)が一つの魅力では?

ああ、全員がエネルギー全開でどかーっと一緒に行くみたいなんはいいですよね。あのー、ジャズ・メッセンジャーズが東京来たときのやつ(61年の来日公演、メンバーはウェイン・ショーター(ts)、リー・モーガン(tp)、ボビー・ティモンズ(pf)、ジミー・メリット(ba))。あれとかめっちゃ好きです。たまたま、2カ月前に映像をみたんですけど、気合が違いますよね、勢いというか、ぼくらが思っているスピードではないですよね。音もデカそうだし。バンドの一体感というかなんなんでしょう。一人一人の生み出している重力が大きいですよね。大きな星たちが互いに引き合って均衡して素晴らしいテンションで生まれる音楽というか。やるんだったらそこまでやりたいです。

●バンドによる違いなど
――今西さんのオリジナル曲というのはソロを弾く上ではどうなんでしょうか?ぶっちゃけ演奏しやすいのでしょうか?

今西さんが書かれる曲はポップスの要素があると思うんです。だから、前作なんかはいわゆるジャズ演奏と言われる「ソロを回して演奏していく」というフォームでは実際、難しいところはありました。どうアプローチしていくか、ということは考えました。

――今西さんはご自身で映画音楽の巨匠、久石譲さんから影響があるって言ってました。

ああ、そうなんですね。今作はブルースとかリズム・チェンジとかジャズでよくみられるようなコード進行もありましたし、そういう意味では横尾さんなんかは活き活きしていたように見受けられましたね。

――當村さんのソロって分散和音だったり、コード進行に沿ったスケールを選んで吹いたりというよりはフリー・インプロヴィゼーションのようなそういったものとは違うところからソロを吹いているってことでしょうか?


今西佑介セクステット

分散和音だったり、スケールだったり、それも大事なことだと思うんです!コード進行に沿ったものがナチュラルに思い浮かべばできるんでしょうけど、ただ、そうじゃないことが多いんですよね。

――昔から現在のようなスタイルでソロを吹いていらっしゃったんでしょうか?

いや、たぶん、うーん、そんなに昔からじゃないですねえ。

――そう言えば、前作『ミティオロロジー』よりも今作、それから、バンドで言えば當村さんが参加されているジェシ・フォレスト・グループよりも今西セクステットの方がアウトしているというか、抽象度の高いソロというか違和感ありありなソロがより顕著な印象がありますが。

そうかもしれないですね。あえて説明すれば、ジェシ・フォレストさんのバンドではもっとバンド・サウンドというものがはっきり求められているようなところがあって、進行も何も考えずに弾けるようなものでもなく自由に吹くというのが中々難しいこともありますね。
メロディがあって、そこにハーモニーが色付けされているような曲ですね。コード進行やテーマというよりもバンドがもっているサウンドに沿って演奏しているということはあります。また、東かおるさん(vo)が参加されていて歌ものということもあるかもしれません。

●共演するピアニストについて
――ソロをとられているときのピアニストのバッキングに関してはいかがでしょうか?

単純にピアニストは弾きにくいんじゃないかなあ。コードトーンを弾くと、たぶん…、多分ですけど、音がぶつかるんだろうなあ、と。今西セクステットのピアニストはそれぞれ個性がありますよね。みなさん共通するのは、聴いてくれているな、というのを感じます(笑)


控え目で慎重。ミュージシャンとしても音楽に真摯に取り組んでいることは言葉の端々に滲みでていらっしゃるけど、話す内容はスケールがデカくて、豪胆な一面も垣間見せる。

――レッド・ガーランド(pf)みたいにソロイストが代わってもどちらかというと一定のバッキングを繰り返されるというのはどうですか?

好きですよ。理想的にはインとかアウトとか二元的なものじゃなく、混然一体となる、そういう感覚になれたらいいなあ、と思います。前任の加納くんは引き算が巧みだなという印象がありました。彼はサウンドの感覚が鋭いのかな。

――ファンとしては當村さんが変てこりんなソロをされるんでリズム・セクションのみなさんがどう反応されるか楽しみなんですが。

うーん、うん、うん。…欲を言えば、寄せてくれなくてもいいというか。お互い何もないところで演奏してもいいというか…。

――ということは、今西セクステットではインタープレイをそんなに求めていない?

そこはリーダーの意向というか、どういうものを求めているかですね。バンドっていわなくても雰囲気ができてくるじゃないですか。みんなオーソドックスなストレート・アヘッドなジャズが好きなんですよね。何かのメロディを引用するだとか、ジャズ・ミュージシャンの有職故実を踏襲するようなジャズが好きだと思うんですよ。そういった中で自分に求められているのは何か悩むところはありますけど…。

――そこは一つじゃないんですか!

わかんないですけどねえ(笑)


當村さんと今西さん

――最後に、弦牧トリオはまた演奏されるんでしょうか?

ぼくはやりたいですね。三ツ寺会館という怪しいけど様々な文化が入り混じる場所で演奏できるというのは面白いですよね。やらせてもらった「えん」という店も大好きでした。

――弦牧さんは「ぼくがリーダーとして成熟したら、また」とおっしゃっていました(笑)

期待したいですね。

<後日談>
當村さんが参加されているRadical Jazz Standard Quartetのライヴ前にお話しを伺ったのですが、ライヴでは、インタビューでも話にあがっていた、エリック・ドルフィの名演で知られる「ブッカーズ・ワルツ」を演奏されていてちょっと鳥肌が立ちました。
アンコールはチャーリー・パーカーの「コンファメーション」。當村さんがテナー・サックスでビー・バップを演奏されるとこれがまたいいんだな!Radical Jazz Standard Quartetの写真はライヴが行われたジャズ喫茶、Dear Loadの店主によるもの。

しらきたかね